弁護士・法律

発信者情報開示請求のやり方は?詳しい手順を解説

<この記事を監修した弁護士>

モノリス法律事務所 代表弁護士
河瀬 季(かわせ とき)

弁護士のプロフィール紹介はこちら

ネット上で、匿名で気軽に書き込めることで特定の個人や団体を誹謗中傷するケースがあとを絶たず、その対策や解決方法を理解することは非常に重要です。

誹謗中傷などの書き込みをした相手に対しては、損害賠償請求などの法的措置をとれる可能性があり、その際に悪意のある投稿者の身元をプロバイダから開示してもらい、特定する方法があります。それが「発信者情報開示請求」です。

2022年10月に特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)が改正され、これまでの開示請求手続きが大幅に簡略化されました。最高裁の発表によると発信者開示請求はすでに2023年8月末までに2,764件と2021年894件と比較して、約3倍と裁判所への申し立てが急増しています。

では、発信者情報開示請求はどのように進めればよいのでしょうか?
今回は、発信者情報開示請求の手続きの流れについて、IT専門の弁護士監修で詳しく解説していきます。

【こんな人におすすめの記事】

  • どんな目的で発信者情報開示請求がされているの?
  • インターネットの掲示板で誹謗中傷を受けていて、投稿者の身元を特定したい。
  • 誹謗中傷を行った投稿者の情報を開示してもらうには、どのような手続きを踏めばよいのか?

発信者情報開示請求とは

発信者情報開示請求とは、SNSやインターネットに書き込みをした相手の情報をプロバイダ(サイト運営者、またはネット回線業者)から開示してもらうための手続きです。

誹謗中傷などの投稿があった場合、その投稿者を特定することで損害賠償請求などの法的措置を取ることが可能です。

ネット上の投稿者が誰であるか不明な場合、法的措置を講じることが難しく、そのため法的措置を取る前に、プロバイダから投稿者の情報を開示してもらう必要があります。

プロバイダによっては任意での開示に一切応じていない場合もあるため、一般的には裁判上で開示請求することを指します。

↓誹謗中傷を削除する方法や流れをご紹介

発信者情報開示請求をする目的

開示請求をする目的

まずは、あらためて発信者情報開示請求を行う目的について確認していきましょう。

損害賠償請求をするため

インターネット上で誹謗中傷などの書き込みが行われ、社会的評価へのマイナスの損害を被ったり、自身の名誉感情が傷つけられた場合、相手に対して損害賠償請求をすることが可能です。

しかし、相手が特定できていない状態でネットやSNS上のダイレクトメールなどで請求しても、無視される可能性が高く、その場合はそれ以上進展しません。そのため、損害賠償請求を行うための第一歩は相手の特定です。

相手を特定できた場合、まずは弁護士を通じて裁判外で請求することが一般的です。
相手が謝罪し、請求した損害賠償額を支払った場合は、裁判に至ることなく示談が成立します。

一方で、相手が不誠実な対応を取り、「請求を無視したり、無理な値下げ要求をする場合」など、合意に至らない場合、裁判による請求という手段を取ることが必要になります。裁判で損害賠償請求が認められれば、相手は裁判所が認定した損害賠償額を支払わなければなりません。

また請求が裁判上認容され、判決が確定したにもかかわらず、請求が無視された場合には、強制執行などの手続きを経て、強制的な履行を求めることも可能です。

刑事告訴するため

インターネット上での誹謗中傷が刑法上の罪に該当する場合には、相手を刑事告訴することも選択肢の一つです。例えば、投稿の内容が「名誉毀損罪」や「侮辱罪」に該当する場合が考えられます。

これらの罪は「親告罪」といわれ、相手を罪に問うためには被害者側からの告訴が必要です(刑法232条)。相手を刑事告訴する前に発信者情報開示請求を行い、相手を特定せずとも告訴自体は可能だが、特定した上で告訴するのが通例である。

相手を特定できたら、告訴状を作成して警察に提出します。
告訴状が受理されると警察による捜査が開始され、逃走の恐れがある場合などには相手の身柄を拘束する「逮捕」が行われる可能性があります。

その後、事件は検察による捜査が行われます。捜査の結果を踏まえ、検察が起訴するか不起訴とするか判断します。

誹謗中傷を予防するため

ありもしない虚偽の情報の拡散や誹謗中傷には開示請求を行い、毅然とした対応で法的措置をとっていくことで将来の誹謗中傷を未然に防ぐことができる場合もあります。

ネット上の誹謗中傷は、それを見た当事者やファンの人々を不快な気持ちにさせます。
近年、芸能人やインフルエンサーは自分たちを守るため、開示請求を行い、法的措置を図っていくことを積極的に発信しています。

ただし予防のためといえ、他の誹謗中傷を誘発するような投稿者を煽るような発言を控えましょう。

発信者情報開示請求時のポイント

開示請求時のポイント

裁判で発信者情報開示請求を行っても、必ずしも情報の開示が認められるわけではありません。発信者情報の開示を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

特定電気通信による公開されている情報

特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信を指します(プロバイダ責任制限法2条1号)。

例えば、ホームページ、ブログ、匿名掲示板などインターネット上の投稿は、不特定多数の人が閲覧します。したがって、インターネット上の投稿が多くの人に見られることで、この要件を満たすことになります。具体的には、以下のような掲示板やサイトが該当します。

  • インターネット掲示板
  • SNS/ブログ
  • 口コミサイト

なお、特定の人だけがアクセスできるメールやチャット、DMは対象外です。

権利を侵害されたとする者

発信者情報開示を請求できる者には自然人だけでなく、法人や組合も含まれます。

ただし、単にインターネット上の投稿によって名誉を毀損されただけでは不十分であり、権利が侵害されたことが明白である必要があります。

例えば、信用や名誉を毀損する誹謗中傷がインターネット上に投稿された場合、それ自体が権利の侵害と言えます。しかし、権利の侵害が明らかであると認められるためには、その誹謗中傷を正当化する事情がないことも重要です。

たとえ信用や名誉を毀損する内容であっても、それが真実であり、公共性や公益性がある場合、違法性がないとして正当化される可能性があります。

したがって、権利侵害が明らかであると認められるには、信用や名誉を毀損する事実が投稿されるだけでなく、その投稿に公共性・公益性・真実性がなく、違法であることを示す必要があります。

また問題の投稿によって、権利が侵害されているかどうかを判断するためには、まずその投稿が権利侵害された特定の個人に対するものであることが前提となります。

インターネット上の掲示板に誹謗中傷の内容が投稿されていても、それが誰に対するものか特定できなければ、権利侵害があったとは認められませんので注意しましょう。

正当な理由が必要

発信者情報開示請求は、例えば誹謗中傷を行った投稿者に対して、私的な制裁や脅すなどの不当な理由で行うことはできません。

正当な理由としては、開示請求者が発信者情報を入手することに合理的な必要性があることを指します。具体的には以下のような場合が該当します。

  1. 発信者に対する損害賠償請求
  2. 発信者に対する謝罪広告等の名誉回復措置の請求
  3. 一般民事上および著作権法上の差止請求
  4. 発信者に対する情報の削除要求
  5. 刑事告発を行うため

これらの理由に基づいて、開示請求が正当と認められる必要があります。

「発信者情報」に該当する

発信者情報は総務省令によって定められており、具体的には発信者情報2条6項に基づく省令で以下の情報が含まれます。

  • 氏名・名称
  • 住所
  • メールアドレス
  • IPアドレス・ポート番号
  • 携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
  • SIMカード識別番号
  • タイムスタンプ(送信された年月日及び時刻)

「開示関係役務提供者」に該当する

開示関係役務提供者とは、情報を開示すべき人や事業者のことでプロバイダ、サイト運営者、またはサーバー運営者などを指します。

営利目的なのかは関係ないため、大学や地方公共団体、趣味でブログや掲示板を管理している個人なども、開示関係役務提供者になるケースもあります。

プロバイダ責任制限法の概要について

発信者情報開示請求を行う流れ

開示請求をするまでの流れ

2022年10月から改正プロバイダ責任制限法が施行され、「発信者情報開示命令」の制度が新たに開始されたことで手続きが簡略化されました。

従来の発信者情報開示請求はサイト管理者とインターネット接続業者に対してそれぞれ2段階で仮処分申立てを行う必要があり、そのため長い期間とコストがかかるという難点がありました(目安:9カ月~1年程度)。

新設された発信者情報開示命令に関する裁判手続きでは、これらの手続きを一つにまとめることも可能です。それに加えて、日本における外国会社の登記が進んだこともあり現状、一般的には手続に要する期間が大幅に短縮しております。

発信者情報開示請求の手続きは次のような流れで行っていきます。

①証拠を残す

インターネット上で誹謗中傷などの被害に遭った場合、相手が書き込みを削除してしまうと証拠が消えてしまう可能性があるため、まずは書き込みのスクリーンショットを撮影し、次の内容がわかるように証拠を残しましょう。

  • 書き込みのID・ニックネーム、内容、日時
  • 前後の書き込みなど発言の流れ
  • 投稿のURL

またスマートフォンでスクリーンショットを撮る場合、投稿のURLが表示されないことが多いため、画像ではなくPDFでページ全体を保存する方法がよいでしょう。

書き込みの内容によっては、できるだけ早く削除してほしいと思って、焦って相手に投稿の削除を求めたり、プロバイダに削除請求をしたいと思うかもしれませんが、証拠保全の観点からそのような対応は避けるのが無難でしょう。

投稿が削除されてしまうと、スクリーンショットに抜けや漏れがあった場合、追加での撮影ができなくなります。開示請求を行う場合には、「投稿者やプロバイダに対して」削除を求める前に、まずは弁護士に相談しましょう。

②弁護士へ相談する

投稿のスクリーンショットを撮影したら、できるだけ早く誹謗中傷問題に詳しい弁護士に相談してください。

プロバイダのログ保存期間は、投稿があった時点から通常3〜6か月程度と非常に短い場合がほとんどです。そのため、投稿者が利用したプロバイダが早期に判明しないと、時間の経過によって発信者情報が消失してしまうリスクがあります。

誹謗中傷に対する法的措置は時間との勝負であり、投稿を発見したらすぐに誹謗中傷問題に力を入れている弁護士事務所へ相談することをおすすめします。

③プロバイダに開示請求を行う

弁護士に依頼すると、まずはコンテンツプロバイダ(SNSや掲示板などを提供する事業者)に対して発信者情報開示請求を行います。しかし、コンテンツプロバイダが任意で開示請求に応じる可能性は低いです。

コンテンツプロバイダが独自に書き込みの違法性を判断することは難しく、違法性がない投稿について任意で開示すると、書き込みをした側からプライバシー権侵害があるためです。

④発信者情報開示命令の申立てを行う

コンテンツプロバイダが任意で開示に応じない場合、裁判所による開示命令を求めるために発信者情報開示請求申立てを行う手段をとることや開示の仮処分の申立てを行う手段をとることが考えられます。

仮処分とは民事保全処分の一種であり、開示請求の訴訟が確定する前に権利を実現するための証拠を保全する手続きのことです。

ただし、裁判所が名誉毀損に該当しないと判断した場合、仮処分が認められないこともあります。

⑤プロバイダから情報が開示される

発信者情報開示請求が認められると、コンテンツプロバイダ(SNSや掲示板などを提供する事業者)から投稿のIPアドレスやタイムスタンプなどの情報が開示されます。この時点では、まだ投稿者の住所や氏名はわからないことが多いです。

なぜなら、コンテンツプロバイダは書き込みをした人の住所や本名の情報を保有していないことが多いためです。

コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレスやタイムスタンプの情報を基に、アクセスプロバイダ(インターネットへの接続をユーザーに提供する事業者)に対して契約者情報の開示を請求します。

アクセスプロバイダから情報の開示を受けることができた場合には、ようやく投稿者の住所や氏名が判明します。これで、投稿者に対して損害賠償請求などを行う準備が整います。

⑥和解交渉・訴訟

プロバイダから情報開示され、身元を特定したあとにまず話し合いで解決を図りたい場合には「和解交渉(示談交渉)」を行います。

和解交渉が決裂した場合には被害者から損害賠償請求訴訟や刑事告訴へ進める流れとなります。どちらも弁護士を立てることでアドバイスだけでなく、自分に有利な主張や証拠の提示もスムーズに行うことができるでしょう。

自分で発信者情報開示請求を行うことがおすすめできない理由

発信者情報開示請求を自分で行うことは、おすすめできません。その理由は次のとおりです。

法令や手続きに関する専門知識が必要であるため

発信者情報開示請求は請求すれば必ず開示が認められるわけではなく、決して簡単な手続きではありません。開示を受けるためには、法令や裁判手続きに関する知識が不可欠です。

自分で発信者情報開示請求を行って投稿者の特定に至るのは容易ではないでしょう。

ログの保存期間内に対応する必要があるため

プロバイダにはそれぞれログの保存期間が定められており、この期間が過ぎると投稿者の特定が困難になります。プロバイダによって異なりますが、ログの保存期間は一般的には3~6か月程度です。そのため、発信者情報開示請求はできるだけ迅速に行わなければなりません。

自分で行おうとすると手続きに時間がかかり、ログの保存期間に間に合わない可能性があります。

費用の目安

投稿者に対する損害賠償請求訴訟等を提起するためには、誹謗中傷の投稿が行われたIPアドレス等の情報が必要です。そのため、まずはIPアドレスなどの情報の開示を求めて、裁判所に発信者情報開示請求を行う必要があります。そして、同発信者情報開示請求の費用については、裁判所に納める手続き費用として数千円、弁護士に依頼する場合には追加で弁護士費用として数十万円~百万円程度が一般的です。

海外法人に対する発信者情報開示請求の費用は翻訳などが発生するため、通常の国内のケースよりも高額になることが一般的です。

また、仮処分手続きでは担保金として10~30万円程度を裁判所に預ける必要があります。この金銭は正当な申立てであれば後に還付されますが、事前に準備しておくことが重要です。

まとめ

発信者情報開示請求とは、誹謗中傷などの被害に遭った際にその相手を特定するための手続きです。損害賠償請求などの前段階として行うことが多いでしょう。

発信者情報開示請求をプロバイダに対して行っても、任意での開示に応じてもらえる可能性はほとんどありません。

そのため、一般的には裁判上での請求が必要となります。
この手続きにはスピードが求められるほか、専門知識が必要なため、お困りの際には早期に発信者情報開示請求の経験が多い弁護士へ相談するとよいでしょう。

記事内容に関するフィードバックはこちらから

RELATED

PAGE TOP