昨今はインターネットの普及により、ネット上での誹謗中傷が社会問題化しています。
警察庁によると、令和6年中にインターネット上での名誉棄損や侮辱による検挙件数は487件に上り、前年比で11.7%増加しました。また、被害を受けた人は、加害者に対して賠償金を請求する事例も増加しています。
誰もがオンライン上で情報を発信しやすい環境である一方で、デマの拡散、名誉毀損、誹謗中傷、なりすましなどが発生しています。インターネットの利用が日常化している中で、誰もが誹謗中傷の被害を受ける可能性があります。
この記事では、SNSやネット上で実際に起きた具体的な誹謗中傷の事例を紹介します。
- SNS・ネットで実際に起きた誹謗中傷の事例を紹介
- 大物芸能人の女性トラブルにおけるSNSの誹謗中傷の事例(2025年1月)
- 教諭を誹謗中傷する動画をSNSで投稿し中学生が逮捕された事例(2024年11月)
- プロ野球選手が誹謗中傷に対して法的措置を取った事例(2024年10月)
- 殺人犯と噂され、長年にわたり誹謗中傷を受け続けた芸能人の事例(2024年9月)
- オリンピック選手に対する誹謗中傷の事例(2024年8月)
- 芸能人に対する殺害予告をした投稿者が逮捕された事例(2023年12月)
- 元人気アイドルをSNSで誹謗中傷した被告に賠償命令が下った事例(2023年4月)
- 池袋暴走事故の遺族をSNSで誹謗中傷した男に有罪判決が下された事例(2023年1月)
- ユーチューバーへの誹謗中傷で賠償命令が出された事例(2021年12月)
- 芸能人がSNSで誹謗中傷の被害にあった事例(2021年3月)
- 誹謗中傷で問われる可能性がある代表的な罪
- SNSやネットで誹謗中傷に会った時の対策
- まとめ
SNS・ネットで実際に起きた誹謗中傷の事例を紹介

インターネットやSNSの普及により、誰もが自由に情報を発信できる時代となりましたが、その一方で誹謗中傷も増加しています。こうした行為はすでに多くの社会問題を引き起こしており、警察による逮捕例が報告されているほか、被害者が弁護士に相談して損害賠償を請求するケース、裁判での訴訟に発展した事例も増えています。
ここでは、SNSやネット上で発生した誹謗中傷の事例を紹介します。
被害者が加害者に対して損害賠償を請求した事例や、逮捕された事例が含まれています。
大物芸能人の女性トラブルにおけるSNSの誹謗中傷の事例(2025年1月)
タレント・司会者として活動していたある大物芸能人が、女性とのトラブルに関連して、複数のメディアに報じられました。この報道により、当事者だけでなく関係のない人々までもが疑惑の対象とされ、SNSで無差別に攻撃される事例が発生しました。
この騒動では、該当テレビ局の社長が行った記者会見の取り扱いに批判が集まり、インターネットやSNSでは関連する誹謗中傷が後を絶たず、記者会見の再実施や、自社の広告の放送停止を求める動きが広がりました。特にSNSでは、フジテレビの対応が批判され、さらには関係ない退職した元アナウンサーにも誹謗中傷が続いています。ネット上では、被害者や詳しい情報源が明らかでないにもかかわらず、特定の人物への誹謗中傷や憶測に基づくコメントが拡散され、さらに複雑化しています。
情報が事実かどうかわからない状態での個人特定や非難は、法的な問題も引き起こすため、情報の取り扱いには最大限の慎重さが求められます。
教諭を誹謗中傷する動画をSNSで投稿し中学生が逮捕された事例(2024年11月)
2024年11月、高知市内の公立中学校において、20代の女性教諭を中傷する動画がSNSに投稿される事件が発生しました。この件で、15歳の中学3年生の男子生徒が名誉毀損の疑いで逮捕され、共謀したとみられる12歳の中学1年生の男子生徒も関与しているとされています。
逮捕された中学3年生の男子生徒は、同じ学校に通う中学1年生の男子生徒と共謀し、2024年10月9日午後7時半ごろ、女性教諭を中傷する内容の動画を撮影し、SNSに投稿しました。
動画内では、逮捕された生徒が女性教諭について事実と異なる内容を話し、その様子を中学1年生の生徒が撮影したとみられています。
プロ野球選手が誹謗中傷に対して法的措置を取った事例(2024年10月)
プロ野球選手が自身とチームメイトに対するSNS上の誹謗中傷に法的措置を講じた事例です。
事件の発端は、選手が自分自身だけでなく、チームメイトもSNS上で受けた悪質なコメントからの精神的な苦痛でした。誹謗中傷に対処するために、選手は弁護士に法的なアドバイスを求め、加害者に対する情報開示の手続きを開始しました。結果として5件の示談が成立し、請求された示談金として1人あたり最大90万円、総額で415万円が支払われました。
選手は、この一連の出来事を世間に公開することを決意しました。誹謗中傷の実態とその法的な結果を広く知らせることで、インターネットでの不適切な行動を抑制し、被害者や後悔する加害者の数を減らすことを目的としています。
示談金から裁判費用を差し引いた残額は全て、子どもたちの食事支援を行う認定NPO法人「むすびえ」に寄付されました。
殺人犯と噂され、長年にわたり誹謗中傷を受け続けた芸能人の事例(2024年9月)
芸能界での活動が順調だった芸人が、殺人犯であるとの誤った事実がインターネット上で拡散されました。この芸人は特定の犯罪と関連付けられ、名誉を著しく傷つけられる形で誹謗中傷を受け続けました。特に、一部のユーザーからは激しい攻撃が集中し、芸人の個人生活にまで深刻な影響を及ぼしたのです。
ネット上での一連の誹謗中傷が原因で芸人が公の場に出ること自体が困難になるほどエスカレート。仕事の機会は大幅に減少し、精神的にも大きな打撃を受けました。誤解が解けるまでには多くの年月を要し、その過程で芸人は法的措置を含むさまざまな方法で自身の名誉を守ろうと奮闘しました。
芸人は最終的に弁護士のサポートを受け、ネットでの誹謗中傷に対する積極的な対策を行うことで、誹謗中傷が事実無根であることを広く伝えることに成功しました。しかし、この問題が完全に解決するまでには多くの時間と労力を要しました。
事実無根の誹謗中傷により、最終的に名誉棄損の疑いで18人、脅迫の容疑で1人、合計19人が検挙されています。
オリンピック選手に対する誹謗中傷の事例(2024年8月)
パリオリンピック中にアスリートや関係者が受けたネットやSNS上での誹謗中傷が8,500件を超え、特に敗れた選手への非難が、日本でも大きな社会問題として浮上しました。
国際オリンピック委員会(IOC)の選手委員会は、この誹謗中傷を非常に重く見ており、選手たちが成し遂げた成果に対しては敬意を表すべきだと強く訴えています。選手委員会には現役のアスリート達が含まれており、自身の経験からもこの問題の深刻さを理解しているため、その発言には重みがあります。
パリオリンピックの期間中、IOCは人工知能(AI)を用いた技術を導入し、悪質な投稿を検知しアスリートの目に触れにくくする試みを行いましたが、それでも誹謗中傷の数は減少せず、多くのアスリートが被害を訴え続けました。誹謗中傷は、選手たちが競技に集中することを妨げる要因ともなり、精神的な負担を増大させる結果となっています。
芸能人に対する殺害予告をした投稿者が逮捕された事例(2023年12月)
有名ロックバンドX JAPANのドラマー兼ピアニストであるYOSHIKIさんが、SNS上で複数回にわたり殺害予告を受けるという事件が発生しました。所属事務所によると、この脅迫行為を繰り返していた人物は、2023年12月に警察により脅迫の容疑で逮捕されました。
YOSHIKIさん自身も、X(旧Twitter)を通じてこの件について言及しており、「人それぞれ、ファンのみんなも、色々な意見があっていいと思う。でも、度を越したものはスタッフ達がブロックもするし、”死” を示唆する書き込みなどは、警察に報告しています。昨日も一件、警察に報告しました。」と述べています。
この事例のように、所属事務所が芸能人を守るために法的措置を取ることが増えています。さらに、名誉毀損やプライバシーの侵害が明確な場合、損害賠償を請求するケースも増加しています。
元人気アイドルをSNSで誹謗中傷した被告に賠償命令が下った事例(2023年4月)
横浜地裁は、ある元アイドルグループメンバーに対する誹謗中傷で、東京都内の50代の男性に対して220万円の賠償を求めて起こした訴訟について、横浜地裁は男性に55万円の支払いを命じました。
被告は、SNS上で元メンバーを誹謗中傷する投稿を数件行ったほか、彼女の取引先に直接「裏に反社がいる」という内容のメッセージを送っていたのです。裁判所は、SNSの投稿が元メンバーの社会的評価を低下させたとして名誉毀損を認めました。ただし、取引先へのメッセージは第三者に拡散される可能性がないとして名誉毀損の成立は認めませんでしたが、取引先が取引を断ったため業務妨害にあたると判断しました。
池袋暴走事故の遺族をSNSで誹謗中傷した男に有罪判決が下された事例(2023年1月)
池袋で発生した乗用車暴走事故で家族を失った男性がSNS上で中傷され、23歳男性に有罪判決が下されました。
被告は、遺族がSNSに、「金や反響目当てで争っているようにしか見えません」とコメントし、「新宿か秋葉原でどうなるか覚えておけ」とも書き込んだ事実があります。
被告は投稿の意図について侮辱する意図はなかったと主張しましたが、裁判では投稿内容から侮辱の意図があったと認定しています。
裁判所は被告人に侮辱罪で拘留29日、偽計業務妨害罪で懲役1年、執行猶予5年の判決を下しました。
ユーチューバーへの誹謗中傷で賠償命令が出された事例(2021年12月)
東京地裁で行われた裁判において、「少年革命家 ゆたぼん」として活動している13歳のユーチューバー少年が、北海道在住の30代男性に対して慰謝料など合計60万円の損害賠償請求を求めた訴訟に判決が下されました。この少年は、小学生の時に不登校になった経験を背景に「不登校は不幸じゃない」などのメッセージをYouTubeで発信しています。
ある男性が2020年7月27日にニュースサイト「ニコニコニュース」のコメント欄に少年に対して不適切なコメントを投稿したことが問題視されました。投稿の内容には「このゴミガキ定期的に上がるけどさ、マジで学校行ってないの?」「5年後一家心中とかで馬鹿にされそうだわ」という内容が含まれていました。
裁判では、男性の行為を「社会通念上許される限度を超えた侮辱行為」と判断し、33万円の賠償請求を命じました。裁判官は、投稿の内容とその回数を考慮し、少年の人格的利益が侵害されたと認定しました。
少年の父親によれば、少年がメディアに注目され始めた時からインターネットでの誹謗中傷が急増しており、これまでにも50件以上のケースで投稿者が謝罪し、示談に至っています。少年の家族は、裁判費用が赤字になることを覚悟の上で、弁護士と共に訴訟を進め、インターネットは「匿名だから何でも書き込んで良い」という環境を変えることを目指しています。
芸能人がSNSで誹謗中傷の被害にあった事例(2021年3月)
2021年3月、日本の人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演していたあるプロレスラーがSNSやネットでの誹謗中傷により自ら命を絶つ悲劇が発生しました。このプロレスラーは生前、SNSに誹謗中傷を示唆する投稿を残しており、これが精神状態に重大な影響を及ぼしたとされています。
この事件の後、2020年には大阪府の20代の男性が、続いて2021年には福井県に住む30代の男性がそれぞれ逮捕されました。これらの逮捕は、侮辱罪の公訴時効が迫る中で行われ被害者側は損害賠償の請求を検討していました。しかし、大阪の20代男性に対しては略式起訴が選ばれ、科料はわずか9,000円にとどまりました。
この事件の後に、日本国内ではネットでの誹謗中傷に対する法的措置の見直しが急速に進められました。総務省と法務省は侮辱罪の厳罰化を含む法制度の改正を検討し、2022年には改正刑法が成立しています。
誹謗中傷で問われる可能性がある代表的な罪

誹謗中傷は、しばしば法的な問題に発展します。
ネット上での誹謗中傷によって問われる可能性のある代表的な罪を解説します。
名誉毀損罪
名誉毀損罪の刑罰は、日本の刑法第230条に基づいて定められています。名誉毀損罪の加害者には、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
民事上の名誉毀損は、特定の者の社会的評価を違法に低下させる表現について認められます。ここでいう社会的評価の低下とは、当該表現の対象者の主観的なものではなく、客観的に対象者の評価が低下する恐れが生じることをいいます。事実を摘示するものでも、意見や論評(感想等も含む)を述べる場合であっても、名誉毀損の対象となりえます。
名誉毀損罪が成立する条件
- 具体的な事実の摘示
- 人の名誉を毀損
- 公然の場である
名誉毀損罪では、公に事実を摘示することが求められます。この場合、事実が真実かどうかよりも、公表された事実が他人の社会的評価を低下させる可能性があるかが重要です。つまり、その情報が広まることによって、該当する人物の信用や評価が損なわれるかどうかが成立する判断基準となります。
「公然」とは、不特定又は多数の人が知り得る状況を意味します。SNSへの投稿などが典型例です。
これらの条件が全て満たされる場合、名誉毀損罪が成立することになります。
例えば、SNSで他人の犯罪歴を投稿するケースや、ネット上でその人の社会的評価を低下させるデマ情報を広げることは、名誉毀損罪に該当する可能性が高いです。
侮辱罪
侮辱罪は、他人を侮辱することによってその人の名誉を傷つける犯罪です。日本の刑法第231条に定められており、公然と人を侮辱する行為を罰するものです。「公然」とは不特定または多数の人が認識可能な状態を指します。例えば、ネット上の匿名掲示板やSNSで人を侮辱する行為があった場合、多くの人が閲覧できるため、これらは「公然」とみなされます。
侮辱罪の成立には、人の社会的評価を低下させるような言動が必要です。これには、名誉を傷つける意図的な言葉や行為が含まれます。
侮辱罪は、名誉毀損罪とは異なり、具体的な事実を摘示する必要はなく、侮辱的な言動そのものが罪となります。
侮辱罪が成立するケースは、他人を侮辱するような言動が公然と行われた場合です。
侮辱罪が成立しやすい事例▼
- SNSで「〇〇の外見は気持ち悪い」と投稿された
- ネットの掲示板で「〇〇はクソです」と個人を特定した投稿
名誉毀損罪と侮辱罪は、それぞれ特定の条件を満たす必要があり、これらの犯罪が成立するかどうかは法的な専門知識を要するため、個人での判断は非常に難しいです。
したがって、インターネットやSNSでの誹謗中傷に直面した場合、どの法律が適用されるのかを正確に理解し適切な対応を取るためにも、速やかに弁護士に相談することが推奨されます。
弁護士は、誹謗中傷において適切な法的措置を講じるだけでなく、損害賠償請求もサポートします。
脅迫罪
脅迫罪は刑法第222条に基づいて規定されており、他人に対して生命、身体、自由、名誉、財産などに害を加えると脅迫することにより、相手に恐怖を与える行為が対象とされます。この犯罪の主な特徴は、被害者に対して具体的な害を加える意思が明確であることです。
典型的な例として、「殺してやる」「殴るぞ」といった直接的な身体的危害の脅迫や、「言いふらしてやる」といった社会的評価を損なうような脅迫が含まれます。
脅迫罪が成立した場合、二年以下の懲役または三十万円以下の罰金に処せられることが定められています。
SNSやネットで誹謗中傷に会った時の対策

SNSやインターネットでの誹謗中傷は、個人の心理的な負担だけでなく、社会的にも大きな影響を与える可能性があります。
具体的な対策方法には以下の3つがあります。
- 警察に相談
- 弁護士に相談
- 専門業者に相談
誹謗中傷が脅迫にあたる場合や、特に悪質なケースでは、警察に相談することが重要です。しかし、投稿の危険性や事件性が低いと判断された場合、相談したとしても警察は早急な対応をしてもらえない可能性があります。
誹謗中傷による法的な対応を検討する場合、弁護士への相談が推奨されます。弁護士は名誉毀損や侮辱罪など、どのような法的措置が取れるか具体的なアドバイスをしてくれます。また、場合によっては賠償金の請求や誹謗中傷に関する記事や投稿の削除請求をサポートしてくれるでしょう。
さらに、インターネットの監視ツールを提供する専門業者も有効です。誹謗中傷の書き込みを早期に発見して対処することができます。また、その情報が風評被害に繋がる可能性がある場合、専門業者は直ちに対応策を提案してくれるでしょう。
誹謗中傷を受けた場合、一人で悩まず専門家に相談することで、適切なサポートを受けることができます。
まとめ
インターネットやSNSが広がる現代社会において、誹謗中傷が大きな問題となっています。SNSの匿名性や情報の拡散の速さは、ユーザーにとって大きなリスクをもたらすことがあります。特に、名誉毀損や侮辱にあたる発言が法的な問題を引き起こすケースが増えており、被害者が法的措置を取る事例も少なくありません。
誹謗中傷による法的な対処としては、名誉毀損罪や侮辱罪がありますが、これらの犯罪が成立するかどうかは状況により異なり、法的な専門知識を要します。そのため、誹謗中傷に直面した場合は、速やかに警察や弁護士に相談することが推奨されます。誹謗中傷により被害を受けた場合、被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。
加えて、SNSやインターネットでの誹謗中傷への対策として、専門業者に相談することが有効です。誹謗中傷の発見や対処が早期に行えるようになり、被害の拡大を防ぐことができる可能性が高まります。
誹謗中傷は一人で抱え込まないで、信頼できる友人や家族、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。