インターネットが日常生活に不可欠なものとなり、多くの利点をもたらしていますが、それに伴い特定のユーザーや企業に対する誹謗中傷のネット記事も増えているのが現状です。これらの不適切な内容は、被害者の名誉やプライバシーを著しく侵害し、重大な影響を及ぼすことがあります。
ネット上で誹謗中傷のような記事に遭遇し、そのネット記事の削除を検討しているなら、正しいアプローチが求められます。権利侵害が明確な場合、被害者は自身で削除請求を行うことが可能ですが、法的手続きには複雑な側面も多いため、専門の弁護士に依頼することで、迅速かつ効果的に問題を解決することができます。
この記事では、ネット記事を削除する方法や弁護士に相談した方が良いケースについて詳しく解説します。
そもそもネットの記事は削除できるの?
インターネットに投稿された記事を削除することは可能ですが、必ずしも削除できるわけではありません。各サイトには独自のポリシーがあり、削除基準も定められています。例えば、ニュースサイトや公式メディアでは、公益性が重視されるため、削除することが難しいケースが多いです。一方、ブログやSNSでは、運営者の裁量によって削除が容易に行われることもあります。
インターネット上の記事の削除は、無条件に削除できるわけではなく、具体的な理由が必要であること、そして時には法的な手続きを経る必要があることを理解しておくことが重要です。
ネットの記事を削除できるケース
ネット上の記事の中には、不正確な情報や権利を侵害する内容が含まれていることもあります。そのため、特定の条件下では、記事を削除できるケースがあります。ここでは、記事を削除できるケースについて詳しく解説します。
個人の権利侵害がある場合
インターネット上の記事が個人の権利を侵害している場合、削除が可能なケースがあります。
名誉毀損
民事上の名誉毀損は、特定の者の社会的評価を違法に低下させる表現について認められます。ここでいう社会的評価の低下とは、当該表現の対象者の主観的なものではなく、客観的に対象者の評価が低下する恐れが生ずることをいいます。事実を摘示するものでも、意見や論評(感想等も含む)を述べる場合であっても、名誉毀損の対象となりえます。
例えば、上場企業の経営者が犯罪を犯したと記事に書いた場合、たとえそれが真実であっても、名誉毀損が成立する可能性があります。これは、その情報が当人の社会的評価を低下させるからです。
ただし、後述するように、社会的評価が低下しても常に名誉毀損が成立するわけではなく、公共の利害に関する事実で、公益を図る目的であり、内容が真実である場合や、真実と信じるに足る相当の理由がある場合には、違法性が阻却され、名誉毀損は成立しないとされています。
なお、個人や法人の実名を伏せたり、イニシャルなどを用いている場合であっても、当該記事が特定の個人や法人に向けられたものであると判別可能である場合には、名誉毀損が成立します。
プライバシーの侵害
プライベートな情報や写真が、本人の許可なく公開された場合、プライバシー権侵害として、削除を請求することが可能です。特に、当事者や家族に関する氏名や住所、健康状態など、通常であれば公開されたくないような事柄が無断で公開された場合は削除が容易である傾向があります。もっとも、後述するように、プライバシー権に係る事実が公表されたとしても常にプライバシー権侵害が成立するわけではなく、公表による公益と、記載による不利益を比較し、前者が上回る場合には、プライバシー権侵害が成立しないとされています。
著作権の侵害がある場合
インターネット上の記事における著作権侵害は、著作権で保護されている作品が無断で使用された場合に発生します。著作権侵害には文書、写真、映像、音楽、ソフトウェアなど、幅広い作品が含まれます。著作権侵害がある場合、関連する記事やサイトの削除を請求することができます。例えば、許可なく著作権で保護された動画や画像を記事内で使用すると、著作権侵害に該当する可能性があります。
削除依頼が拒否されたり無視された場合、法的措置として損害賠償請求すること等も検討対象です。
規約違反がある場合
ウェブサイトの利用規約や契約に違反している場合は記事の修正や削除を求めることができます。多くのウェブサイトでは利用規約を設けており、投稿内容に関する規定(差別的な言葉の使用禁止、特定の個人や団体への攻撃的なコメント禁止など)を定めています。記事がこれらの基準に違反している場合、前記の権利侵害に当たらないような場合であっても、規約違反として削除の対象となります。利用者は、ウェブサイトの規約を正しく理解し、違反があった場合には適切な手段を用いて報告することが推奨されます。
ネットの記事を削除できないケース
インターネット上の記事の削除を求める際、すべての要求が受け入れられるわけではありません。例えば対象者の社会的評価が低下するような記事であっても、同社会的評価の低下が違法ではないと認められるような場合には、削除が認められないことがあります。以下ではネットの記事で削除できないケースについて解説します。
削除に法的な根拠がない場合
インターネット上の記事を削除する際、法的な根拠がなければ、削除依頼が認められることはほとんどありません。名誉権とプライバシー権について、それぞれ以下の場合には、違法な権利侵害がないものとして、法的な根拠が認められません。したがって、記事削除を求める場合には、これらの要件を満たさず、違法な名誉毀損やプライバシー権侵害であることを先もって主張することが重要です。
1.名誉毀損が成立しない場合
社会的評価が低下している場合であっても、以下の3要件をすべて満たす場合には、違法な名誉毀損とは認められません。
- 記載内容に真実性または真実相当性が認められること
- 真実相当性とは、記事作成者が記事掲載時に、その内容が真実であると信じるについて相当の理由が存在することをいいます。
- 公共の利害に関する事実であること
- 公益目的で記事が作成されていること
2.プライバシー権侵害が認められない場合
問題となる事実がプライバシー情報である場合であっても、その公表によって得られる公益が、個人が被る不利益を上回る場合には、違法なプライバシー権侵害とは認められません。
個人の主観的な意見のみの場合
単に「この記事はつまらない」等の個人の主観的な意見に関しては、純粋にその人の感想に過ぎず、表現の自由よりも優先して記事を削除すべき法的権利や利益がないうえ、利用規約上もそのような記事削除は認めていないことがほとんどなので、削除の対象となることは通常難しいです。
仮にこのような意見で削除請求してしまい、削除が認められてしまった場合には、記事作成者から逆に損害賠償請求等を提訴される可能性もあり危険です。
ネットの記事を削除する方法
インターネット上の記事は必ずしも削除できるわけではありませんが、いくつかの方法を活用することで、削除できることがあります。ここではネット記事を削除するための具体的な方法について説明します。
方法①記事の管理者または運営者に削除申請
インターネット掲示板やネット記事などに設けられている「問い合わせ」「削除依頼フォーム」などを利用することで、記事の削除を依頼することが可能です。問い合わせフォームなどの削除依頼は費用が発生しないため、誰でも行うことができます。
削除依頼の際は、なぜその記事を削除してほしいのか、事実に基づいて冷静に依頼することが重要です。
- 記事が虚偽の情報を含んでいる
- プライバシーを侵害している
- 投稿された内容が利用規約に違反している
ただし、すべての削除依頼が受理されるわけではありません。サイト側が依頼の正当性を判断するため、対応がサイトによって異なることがあります。場合によっては、運営者が記事の公益性を理由に削除を拒否することもあったり、依頼に対して連絡が来ないことも多いです。
方法②SNSのDMで削除依頼
SNS上に問題のある投稿や記事が見つかった場合、その投稿を行った本人(アカウント所有者)に対して、ダイレクトメッセージ(DM)を使って削除を依頼します。投稿者に直接依頼できるため、迅速な対応が期待できます。
削除依頼を行う際は、相手に対して敬意を払い、冷静に対応することが非常に重要です。 感情に流されて攻撃的なメッセージを送ると、逆効果になりかねません。
ただし、DMを送っても、投稿者が削除依頼を無視することもあります。フォロワー外からのメッセージが届かない設定になっていることもあるため、連絡がつかない可能性もあります。
方法③弁護士へ削除を依頼
ネット上の記事を削除したい場合、弁護士に依頼することが非常に有効な手段になり得ます。たとえば、ご自身で削除依頼を行った場合、サイト管理者がその依頼に対して前向きでない反応を示すことが多いです。しかし、弁護士が代理人として削除依頼を行うと、サイト管理者は迅速に対応しようとする傾向があります。このため、個人からの依頼よりも早い対応が期待できることが多いです。
特に、名誉毀損やプライバシー侵害が懸念される場合、早い段階で弁護士のサポートを受けることは非常に有効です。弁護士が法律に基づいた根拠を持って依頼を行うことで、削除の可能性が高まります。
方法④逆SEOやサジェスト・関連等非表示対策を業者に依頼
インターネット検索において、特定のワードを入力すると、その単語に関連した検索候補が表示されることがあります。これをサジェスト機能と言います。また、GoogleやYahoo!には関連検索と呼ばれる機能もあります。これは、ユーザーが入力した検索ワードに関連する他の検索キーワードが検索結果のページ上部や下部に表示されます。どちらも最も関連性の高いキーワードをリアルタイムで表示させてくれる便利な機能ですが、時にはネガティブなキーワードを表示させることがあります。たとえば、サジェストで「企業名 ブラック」などの表示がされ、クリックすると企業に関するネガティブな内容が書かれた記事やサイトが検索結果の上位に表示されることがあります。ブランド検索ではネガティブな記事が表示されなくても、企業名に特定のワードが加わることで、そのネガティブな記事やサイトが検索結果の上位に表示されてしまうことがあります。
そこで、逆SEOやサジェスト・関連等非表示対策という方法があります。逆SEOは、ネガティブなネット記事が検索結果の上位に表示されないよう、検索順位を下げる施策です。一方、サジェスト・関連等非表示対策は、ネガティブな検索ワードや関連ワードが表示されにくくなるように予防措置を取るか、または非表示にする施策です。
削除依頼が通らなかったり、削除に時間が掛かる場合、逆SEOやサジェスト・関連等非表示対策は有効な対策です。ただし、これらの対策は根本的な解決ではないため、あくまで一時的な対応として位置づけた方が良いです。
ネット記事の削除依頼は自分でもできるの?
ネット上の記事の削除依頼は自分自身で行う方法もあります。サイト内に設置されている問い合わせフォームや、SNSで直接連絡することで、自分で削除を申請することができます。ネット記事の削除依頼を行う際は、各サイトやSNSの規約を事前に確認し、削除依頼の手順に従って行うことが重要です。
ただし、依頼した全ての投稿が削除の対象となるわけではなく、投稿内容によっては削除されない可能性もあります。たとえば、自分が誹謗中傷されていると感じても、サイトの規約に違反していないと判断されれば、削除されないこともあります。そのため、削除依頼を行う前には、自分のケースが規約のどの条項に該当するのかをしっかりと確認した方が良いでしょう。
自分では削除依頼が難しい場合は弁護士に相談した方が良い
ご自身での対応では、時間がかかることや削除してもらえないケースがあります。そのような場合、弁護士に相談することが推奨されます。弁護士は、法律違反があるかどうかを判断し、適切な法的手続きを通じて迅速に対応することが可能です。
自身でネット記事の削除が難しい場合は弁護士に相談することが重要です。
弁護士にネット記事の削除を依頼するメリット
インターネット上での問題は複雑であり、ご自身で対応するには限界があることが多いです。このため、弁護士に相談することにはいくつかのメリットがあります。
法的根拠をもとに削除依頼をしてくれる
弁護士は法的根拠に基づいて、削除要求を行ってくれます。単に当事者が依頼する場合と異なり、弁護士が関与することで、削除要求に法的な裏付けがあるため、相手方に対してより強い説得力を持つことができます。特に名誉毀損やプライバシー侵害といった法的な問題が絡む場合、弁護士の適切なアプローチにより、削除が迅速に実現する可能性が高まります。また、法的な手続きを踏んでいるため、相手方も無視しづらく、対応が期待できることが多いです。
時間と労力の節約
ネット上の記事の削除に関する問題は、ご自身で解決しようとすると複雑かつ時間がかかる場合が多く、法律の知識なども必要です。しかし、弁護士に相談することで、これらの複雑な手続きを代行してもらうことができ、大きな手間が省けます。
さらにインターネットに関する法律に詳しい弁護士であれば、適切なアドバイスや対応策を提供してくれるでしょう。早期に相談することで、トラブルの拡大を防ぎ、スムーズな解決を目指すことができます。
このように、インターネットに関する法律に詳しく削除実績の多い弁護士に削除依頼をすることは、労力の節約につながるだけでなく、ストレスを軽減し、時間を節約する効果があり、ネット記事の削除が成功する可能性が高まります。
損害賠償請求についても相談できる
弁護士に依頼することで、削除要求だけでなく損害賠償請求についても相談できるという大きなメリットがあります。
名誉毀損やプライバシー侵害など、悪質な投稿や不当な情報によって当事者や企業が受けた損害に対して損害賠償を請求する手続きは複雑で法的な専門知識が必要です。
弁護士に相談することで、損害の評価や賠償額の算定、適切な手続きについてのアドバイスを受けることができます。弁護士は、どのような証拠を集めれば有利になるか、どのように交渉を進めるべきかを熟知しています。そのため、生じた損害に対して適切な補償を期待できます。
弁護士にネットの削除依頼をする際の費用相場は?
弁護士にネットの誹謗中傷削除を依頼する際の費用相場は、状況によって異なりますが、通常は1URLにつき5〜20万円ほどが目安です。この費用は、サイトの管理者や管理会社に対して直接削除依頼を行う「任意削除」の場合です。ただし、削除を依頼する書き込みの件数や、削除の難易度によって費用が変わる可能性があります。
弁護士費用は通常、「着手金」と「報酬金」に分かれています。
- 着手金: 契約時に発生し、結果にかかわらず返還されない費用
- 報酬金: 削除が成功した場合に支払うもので、削除が成功しなかった場合には発生しない
弁護士に相談する際は、費用だけでなく、費用の内訳も確認することが大切です。また、法律相談の際には「相談料」が発生する場合もあります。この相談料も時間や回数によって変わるため、事前に弁護士事務所の料金体系を確認しておくと、予期しない費用トラブルを防ぐことができます。
まとめ
ネット上の記事の削除は、個人や企業の権利侵害がある場合、正当な理由を持って対応することが可能です。特に名誉毀損、プライバシー侵害、著作権侵害がある場合は、削除依頼が受け入れられる可能性が高くなります。
自分でネット記事を削除する方法もありますが、すべての削除依頼が受け入れられるわけではありません。また、サイト運営者が対応に前向きでない場合や削除要求が無視されることもあります。そのため、削除に関する法律の知識や手続きが必要なケースでは、弁護士に相談する方が良いです。弁護士は法律に基づいて削除要求を行い、迅速に問題解決を図るだけでなく、損害賠償請求についてもサポートを提供してくれます。
結果として、弁護士に削除依頼することで時間と労力を大幅に節約し、確実な問題解決に向けたサポートを受けることができるでしょう。