社会のデジタル化が進む中で、ソーシャルメディア(SNS)は私たちの生活に不可欠なツールとなっています。
それに伴い、SNS上での非難や批判が集中し、その結果誹謗中傷や風評被害が拡大する現象、「SNS炎上」というリスクが問題視されています。
炎上により、最悪の場合命に関わる悲劇が発生したり、企業の活動に悪影響を与えることもあり、その被害はデジタル空間にとどまらず、現実世界にも波及します。
気軽に扱えるSNSだからこそ、そのアカウント運用についてリスクと対策を考えておくことが非常に大切です。
この記事では、SNS炎上の影響やそのプロセス、炎上リスクに備える事前の対策、発生した際の対処法について紹介していきます。
SNS炎上が企業や個人に与える影響
SNSでの炎上事件は年々増加していて、社会的に問題視されています。
また、SNS炎上は単なる一時的な問題に留まらず、対象となる個人や企業の評判を長期にわたって損なうことも。
企業にとって、SNS炎上はその信用度にダイレクトに影響を及ぼします。
消費者は情報を迅速に入手し、その情報に基づいて企業の製品やサービスを選択します。
炎上によってネガティブな情報が拡散されれば、それだけで消費者の購買意欲が損なわれることになります。
また、炎上は企業の内部にも影響を及ぼし、従業員の士気の低下や、採用市場での競争力の低下を招くことも考えられます。
個人の場合、炎上は社会的な信用の失墜を意味します。
特に公の立場にある人物や、特定の専門職の人が炎上すると、その職業生活において重大な障害になり得ます。
さらに、精神的なストレスは計り知れず、プライベートな生活においても大きな打撃を受けることも。
炎上はしばしば個人の社会的孤立を引き起こす原因となり、オンラインハラスメントやリアルな脅迫、最悪の場合命の危機へと発展するケースも少なくありません。
炎上の影響は一時的なものではなく、デジタルタトゥーとしてインターネット上に長期間残ることが多いです。
これは、一度インターネット上に情報が拡散されると、完全に削除することが非常に困難であるためです。
過去の炎上が何年も後に再び表面化することもあり、そのたびに新たな批判や注目を集めるリスクがあります。
SNS炎上が拡がる主なプロセス
SNSでの炎上が発生するプロセスを理解することは、SNS炎上というリスクを防ぎ、適切に対策する上で非常に重要です。
ここでは、一般的にSNS炎上がどのようにして拡がっていくのかを段階的に解説します。
①SNSでの情報発信
炎上のプロセスは、何らかの情報がSNS上で発信されることから始まります。
これは企業アカウントや個人アカウントによる投稿がきっかけとなります。
発信される内容は、意図的あるいは無意識のうちに、誤解を招く情報や感情を害するようなコメント、場合によっては事実と異なる情報が含まれていることもあります。
②SNSでの拡散
投稿された内容が、フォロワーによって共有され、そのネットワークを通じて投稿への批判が広がります。
特に、物議を醸すような内容は、速やかに拡散されやすい傾向にあります。
SNSの構造上、共感を呼ぶ投稿ほど拡散されやすく、これが炎上へとつながる場合が多いです。
③インフルエンサーによる拡散
SNS上で影響力を持つインフルエンサーや有名人がその投稿を取り上げると、その影響力によりさらに多くの人々の目に触れることになります。
インフルエンサーが意見を述べることで、そのフォロワーからの反応が加速され、話題が炎上へと拡大します。
④まとめサイトや匿名掲示板
炎上が一定の規模に達すると、まとめサイトや匿名掲示板等のプラットフォームでも取り上げられるようになります。
⑤メディアによる報道
炎上の規模が大きくなると、オンラインニュースサイトをはじめとするメディアがこの話題を取り上げます。
メディアに取り上げられることで、さらに広範な層に情報が拡がり、公の注目を集めることになります。
メディア報道によって、炎上は一つの社会的現象として確固たるものとなり、解決がさらに困難になることもあります。
上記のプロセスを通じて、SNSでの炎上がどのように進行し、どれだけ迅速に広範囲にわたって拡がっていくかが理解できます。
この知識をもとに自社の炎上リスク管理や対策を行っていきましょう。
SNS炎上の原因
SNS炎上の原因は何があるのでしょうか。
炎上の原因を知り、そのリスクに備えていきましょう。
クレームや批判
SNSで炎上する主な原因の一つは、「顧客からのクレームや批判」です。
以前は顧客の意見や不満が電話やメールで伝えられることが多かったですが、最近ではSNSを通じて直接公開されることが増えています。
たとえば、製品の異物混入が発覚した場合や、サービスに問題があった場合、店員の接客態度が不適切だった場合など、これらのクレームや批判がSNSで拡散され、大きな炎上につながることがあります。
トラブル発生時の対応策を事前に計画し、炎上リスクに備えましょう。
誤解や歪曲
SNSの特性として、情報が迅速に拡がる一方で、誤解や情報のゆがみが生じやすいです。
文字数の制限や状況の把握が不完全であることから、言葉の選び方や表現のニュアンスが正確に伝わらないことがしばしば発生します。
加えて、投稿が第三者によって共有される過程で、本来の意味が異なる形で解釈されることもよくあります。
情報が断片的にしか伝わらないこと、背景やニュアンスが省略されることが誤解から批判に繋がる主な原因です。
さらに、ユーザーが持つ特定のフィルターを通じて情報を受け取ることで、実際とは異なる情報や偏見が強化されるリスクも高まります。
これらの誤った表現や誤解が批判やSNSの炎上の一因となることがありますので注意しながらアカウントの運用を心がけましょう。
不適切な発言や行為
「公式アカウントや経営陣による不適切な内容の投稿」も炎上の原因として挙げられます。
受け手や関係者がどのように感じるかを考慮せずに投稿された内容や、SNS運用担当者の個人的な解釈に基づく投稿が大きな批判を受けることがあります。
特に、宗教、人種、性別、ジェンダーなどのセンシティブなテーマに対する発言は批判が集まりやすいので、これらの話題については十分な配慮が必要です。
SNSで投稿する際は、すべての人に配慮し、センシティブな話題には特に慎重に扱うことが求められます。
また、従業員が企業アカウントと個人アカウントを間違えて投稿することから大きな批判や炎上が起こるパターンもあります。
一瞬のミスが企業の信頼を大きく損なうことにつながります。
不祥事やスキャンダル
「不祥事やスキャンダル」も炎上を引き起こすリスクの一因です。br>
また、最近ではある企業で新入社員への待遇の悪さが内部告発され、週刊誌に取り上げられ大きな批判から炎上が発生しました。
企業や団体が社会的な信頼を失うような事件は、即座に炎上しやすく、関係者がそういったトラブルを起こさないよう予防策を講じ、企業としても労働基準やコンプライアンスを遵守することが大切です。
頻発するバイトテロ
「バイトテロ」と呼ばれる現象で、アルバイトの従業員が職場で不適切な行為を行い、その様子を動画に収めて拡散されるケースが、炎上として度々取り上げられています。
このような行為は、偽計業務妨害罪(刑法第233条)、威力業務妨害罪(刑法第234条)、器物損壊罪(刑法第261条)など、複数の犯罪に該当する可能性があり、法的な責任を問われることが十分に考えられます。
また、この不適切な行為を行った人だけでなく、動画を撮影し公開した人も同様に罪に問われる可能性がある点に注意が必要です。
誤った情報の掲載
「誤った情報の掲載」もSNS炎上の原因となり得ます。
SNSアカウントの運用に多数のスタッフが関わっている場合や、運用を外部に委託している場合、コミュニケーション不足や社内ルールの不徹底が原因で不適切な内容が投稿され批判に繋がることがあります。
重要な情報は、投稿前に必ず確認を行うことが不可欠です。
SNS炎上リスクに備える具体的な対策
炎上リスクを減らすための対策は欠かさず行っておきましょう。
SNSの炎上対策として、取り組んでおきたいことを5つ紹介します。
①ソーシャルメディアガイドラインの策定
従業員がSNSを使用する際の注意点や批判を引き起こす可能性のある投稿を避けるためのガイドラインを設け、具体例とともに提示することをおすすめします。
ガイドラインを作成したら、SNS運用チームや関係部署のみならず全従業員に周知しましょう。
自社アカウントは運用担当者以外も閲覧していますし、担当外の従業員がいち早く炎上に気が付く場合もあります。
緊急時にどうやって誰に連絡するのか、エスカレーションや業務フローをオープンにすることで、炎上時の対応がよりスムーズに行えます。
また、運用担当者に連絡がつかなかった際の代替策なども記すなど連絡フローを細かく設定し、対応をストップさせないことが重要です。
②公式SNSアカウント運用ポリシーの策定
自社の公式SNSアカウントを明確にし、その運用方針や発信内容を定めます。
公式アカウントの運用ルールをクリアにすることで、運用の個人依存を防ぎます。
ソーシャルメディアガイドラインや公式アカウントの運用ポリシーは、企業の個人情報保護方針や情報セキュリティポリシーと同様に重要です。
SNSで炎上が起こらないよう、慎重な情報発信と安全なSNSの利用を心がけましょう。
③モニタリングでSNS炎上を未然に防ぐ
企業や団体のSNSアカウントでの炎上被害を最小限に抑えるためには、定期的な「モニタリング」が欠かせません。
モニタリング、または「ネットパトロール」「ネット監視」と呼ばれるこの活動は、ユーザーのコメントを含むインターネット上の自社関連情報を監視することです。
このプロセスにより、アカウントに関わる批判や炎上の兆しを早期に発見し、適切な対策を講じることが可能となり、問題を小さく留めることができます。
モニタリングは自社内で行う場合と外部の専門業者に依頼する場合があります。
自社で取り組む際には、適切な人材と時間の確保が必要であり、モニタリングの効率を高めるためにキーワード監視ツールなどのサービスを利用することが有効です。
これにより、チェック漏れを防ぎながら効率的に情報を収集し、迅速に対応する体制を整えることができます。
④SNS利用研修の実施
炎上対策のために、SNS運用チームだけでなく、全社員を対象にSNSに関する研修や勉強会を定期的に行うことを推奨します。
ガイドラインやマニュアルの変更があった際は、より理解を深めるためには、全社員が参加する研修を設けることが有効です。
また、SNS利用研修では、他社の従業員による炎上事例を挙げ、その厳しい結末を詳細に説明することで、個人のSNSアカウント使用時の注意点を明確にします。
特に、バイトテロ事件の防止には、従業員に「単なる悪ふざけでは済まされない」という認識を持ってもらうことが重要です。
新入社員研修や職場での携帯電話持ち込み禁止策や、機密情報漏洩の防止策を講じているにも関わらず被害に遭うケースが多いです。
不適切な行動が発覚した場合には、高額な賠償金請求や訴訟のリスクが伴うこと、個人情報が公開されることによる就職や結婚への影響、さらに刑事罰の可能性についても説明し、深刻な社会的制裁を受ける可能性を従業員に理解してもらう必要があります。
こうすることで、炎上リスクに対する意識が高まり、トラブルの予防、炎上が発生した際の迅速な対応が可能になります。
⑤SNS炎上リスク対応フローの確立
SNSにおける炎上を初期段階で発見した場合でも、すべての従業員が適切に対応できるわけではありません。
批判の内容や拡散の程度によっては、状況を理解し対策を決定するのが困難な場合もあり、そのような際には経営層との協議が必要になることも考えられます。
迅速な初動対応を実現するためには、企業内で具体的な報告ルートや判断基準をあらかじめ定めておきます。
これにより、炎上の初期段階での拡散を防ぎ、事態が悪化する前に適切な措置を講じることが可能となります。
事前に危機対応マニュアルを作成し、対応フローを整備することで、リスク発生時の迅速かつ効果のある対応が実現し、炎上被害の最小化が可能になります。
実際にSNS炎上が起こった際の4つの対応方法
しっかりと対策をすれば、事前に炎上を防ぐことはできますが、残念ながらリスクを完全にゼロにすることは不可能です。
万が一、SNS炎上が発生してしまったときは、以下を参考に冷静に対処しましょう。
①事実確認と論調の理解
炎上が発生した際には、事実確認を素早く行い、SNS上での批判や他の反応を理解することが不可欠です。
「何が批判の引き金となったのか」「その批判内容は事実に基づいているか」「誤解がある場合、実際の状況はどうなっているのか」を把握しましょう。
この情報を基にして、適切な謝罪の方法や今後の対策を計画し、実行していきます。
②誠実な謝罪と訂正の実施
企業がミスを犯した場合、誠実な謝罪と訂正が求められます。
ただし、形式的な謝罪は逆効果になることもあるため、謝罪の内容を明確にし、具体性のある事実と再発防止策を伝えることが必要です。
謝罪の方法としては、SNSでの文書投稿、公式声明の発表、記者会見の開催などが考えられますが、事態の重大さに応じて適切な方法を選ぶ必要があります。
詳細にわたり誤りを認め、今後同じ過ちを繰り返さないことを強調することで、信頼回復に努めましょう。
③慎重な対応と保留コメントの検討
すべてのSNS炎上事案に即座に謝罪する必要はありません。
場合によっては、事態の推移を静観し、冷静な対応を取ることが望ましいです。
特に、根拠のない非難や誤った情報に基づく炎上の場合、事実関係が明らかになるまでの保留コメントを出すことが効果的です。
このようにして、事実確認を行いながら、炎上によって不安を感じている人々への配慮を示すコメントを加えることで、自社の責任ある態度をアピールします。
④法的措置
炎上がエスカレートし、名誉毀損の可能性がある場合、法的措置を検討することも一つの手段です。
これにより、積極的に問題に対処している自社の姿勢を外部に示すことができます。
しかし、このようなアクションにはリスクも伴うため、専門家との相談を通じて、実行前にはコストや影響を慎重に評価する必要があります。
SNS炎上時に意識すべきポイント
炎上事案が発生した際に適切に対応するために、特に意識すべきポイントを説明していきます。
情報の報告・共有
炎上を発見した際には、すぐに状況を直属の上司やチームに報告し共有することが重要です。
事態の報告をするときは、火種となった投稿のURL、アカウント情報だけでなく、炎上が発生した日時または炎上を発見した日時、運用担当者の氏名と連絡先など必要な情報をまとめましょう。
投稿を削除する場合は、その理由と謝罪を明確にし、公表することは効果があります。
必要最低限な情報発信
炎上後のアカウントは必要最低限な情報発信にとどめておきましょう。
アカウントからのむやみな投稿は「ストップ」して様子を見ることが大切です。
一貫した対応
炎上時には企業や団体として一貫した対応を取ることが求められます。
メディアへの対応計画を作成し、それを自社内で共有、全メディアに平等に情報を提供することが大切です。
原因分析と改善
炎上の対応と並行して、問題の根本原因を徹底して分析し、それをもとに改善策を立てていきましょう。
再発防止の対策を公式サイトで明らかにし、自社の具体的な改善計画を発表することで、同様の炎上が再発しないよう明確な姿勢を示しましょう。
SNS炎上後のフォローアップ対策
SNSでの炎上が収束した後も、そのフォローアップは極めて重要です。 継続的な対策と効果的なコミュニケーションは、自社の信頼の再構築と問題の再発防止につながります。
SNS炎上後の状況の継続的な監視
SNS炎上収束後も、インターネット上の議論や反応を定期的にチェックし、自社に関する新たな批判や問題が生じていないかを監視します。 これにより、悪化する前に迅速に対応し、必要に応じて対策を再考することができます。
- 継続的に状況を分析し、改善が見られるかどうかを評価する。
- ステークホルダーや利害関係者からのフィードバックを受け、改善に向けた対策を計画する。
コミュニケーションの継続
炎上が収束しても、関係者や公衆とのコミュニケーションを継続し、透明性を持って情報を提供していきます。
これには、謝罪を深める、改善策の進捗を報告する、経緯を説明するなどが含まれます。
- 定期的に進捗報告や公式声明を公開して透明性を確保する。
- ユーザーの質問や懸念に対応し、適切な対応を心掛ける。
- 自社への信頼回復に向けた戦略を決め、実行する。
ブランドイメージの修復対策
SNS炎上によりブランドイメージが損なわれた場合、具体的な改善策を導入し、その取り組みをアピールすることが大切です。
外部の専門家や第三者機関と協力し、自社の客観的な評価や対応を求めることも有効でしょう。
SNS炎上対策のまとめ
SNSの普及に伴い、情報が瞬時に拡がるようになった一方で、SNS炎上という現象は大きな問題です。
炎上は企業や団体のイメージに大きく影響を及ぼすため、ネガティブな情報が迅速に広まるリスクが伴います。
SNS上での炎上は予期せぬタイミングで発生することが多く、このような事態が起こった場合は、適切な対応を通じて自社の姿勢を積極的に示すことが重要です。
また、原因の分析と次への対策の構築も不可欠です。
SNSアカウントを運用する上で、担当者は日頃から炎上リスクの知識を身につけ、事前の予防対策と実際に起きたときの対応を日頃から想定し、準備することを心がけましょう。