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名誉毀損と侮辱罪の違いは?成立するケースを詳しく解説

<この記事を監修した弁護士>

モノリス法律事務所 代表弁護士
河瀬 季(かわせ とき)

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日常生活やSNS上で、時として他者の名誉を傷つけるような発言が含まれることがあります。このような発言が名誉毀損や侮辱罪などの法的な問題に発展することも少なくありませんが、名誉毀損罪と侮辱罪の明確な違いを知らない方も多いのではないでしょうか?

この記事では、名誉毀損罪と侮辱罪の定義、どのような発言がこれらの罪に該当するのか、そして名誉毀損罪と侮辱罪の具体的な成立ケースについて、弁護士監修のもと詳しく解説します。

日常生活での発言がどのように法的な影響を及ぼすのか、しっかり理解しましょう。

名誉毀損と侮辱罪の違いは?

名誉毀損と侮辱罪の違いは?

名誉毀損罪は、他者の社会的評価を低下させる具体的な事実を公に摘示する行為に適用されます。名誉毀損罪は、法的にも重く扱われ、慰謝料の相場も高くなります。一方で、侮辱罪は具体的な事実の摘示がなくとも、人を侮辱するような言動が行われた場合に成立します。侮辱罪の刑罰や慰謝料の相場は名誉毀損罪に比べて低いです。

名誉毀損罪と侮辱罪はどちらも他者の名誉を害する可能性のある行為を対象としていますが、その成立条件と扱われ方には顕著な違いがあります。
. どちらも弁護士を通じて適切な証拠を集め、慰謝料の請求を含めた法的手続きを進めることが重要です。

名誉毀損罪と侮辱罪の違い▼

  • 名誉毀損罪は具体的な事実の摘示が必要、侮辱罪は事実の摘示は必要なし
  • 名誉毀損罪のほうが、侮辱罪よりも刑罰が重い
  • 慰謝料相場は侮辱罪の方が低い

名誉毀損罪とは

名誉毀損罪とは

名誉毀損罪とは、他人の名誉を毀損することを目的として、公に事実を摘示する行為を指します。この罪は、日本の刑法第230条に基づき規定されています。

名誉毀損罪は、公に事実を摘示し、その事実によって他人の社会的評価を低下させる行為を指します。ここでいう「公に」とは、SNSなど不特定又は多数の人が知る方法で情報を広めることを意味し、「事実」が真実であるかどうかは影響しません。つまり、真実であっても他人の評価を下げるような事実を公表した場合、名誉毀損となることがあります。例えば、個人が過去に犯した罪で既に刑を服して社会に復帰した後、その犯罪歴を新たに公開する行為は、その人の社会的評価を不当に低下させることになるため、名誉毀損罪に該当する可能性が高いです。
ただし、公益性や正当な理由がある場合はこの限りではありません。これは、公共の利益に資する情報の公開(例:公人の不正行為の暴露)、または科学的、教育的な目的などで事実を摘示する場合は、正当な理由として認められる可能性があります。

名誉毀損罪においては、「故意に」事実を摘示した場合に限り罪が成立します。これは、加害者が自身の行為が他人の名誉を毀損することを認識し、そのことを認容して行動していたことが求められることを意味します。
名誉毀損罪には刑事罰が伴い、加害者は懲役または罰金が科されることがあります。さらに、名誉毀損行為により被害者が精神的苦痛や社会的損害を受けた場合、民事訴訟を通じて損害賠償請求を行うことができます。
ただし、名誉毀損罪は、親告罪として扱われます。親告罪とは、被害者自身が告訴しなければ公的機関が起訴に進むことができない犯罪のことを指します。名誉毀損の場合、告訴権者は被害者本人です。犯人を知った日から半年以内に告訴することが必須であり、被害者が警察や検察に告訴を行うことによって初めて、法的な手続きが始まります。

名誉毀損罪の刑罰

名誉毀損罪の刑罰は、日本の刑法第230条に基づいて定められています。名誉毀損罪の加害者には、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
この刑罰は、他人の名誉を故意に毀損した場合に適用されるもので、公に他人の社会的評価を低下させるおそれのある事実を摘示した場合に成立します。名誉毀損の事実が特に悪質な場合や社会的影響が大きい場合、法的な裁量によって最大刑が求められることもあります。
加えて、名誉毀損により被害者が精神的または経済的な損害を受けた場合、刑事罰のほかに民事訴訟を通じて損害賠償請求がなされることもあります。

名誉毀損罪の公訴時効は犯行から3年です。

名誉毀損罪が成立する条件

  • 具体的な事実の摘示
  • 人の名誉を毀損
  • 公然の場である

名誉毀損罪では、公に事実を摘示することが求められます。この場合、事実が真実かどうかよりも、公表された事実が他人の社会的評価を低下させる可能性があるかが重要です。つまり、その情報が広まることによって、該当する人物の信用や評価が損なわれるかどうかが判断基準となります。

「公然」とは、不特定又は多数の人が知り得る状況を意味します。SNSへの投稿などが典型例です。

これらの条件が全て満たされる場合、名誉毀損罪が適用されることになります。

例えば、競合他社の製品に関して虚偽の情報を流す投稿や、インターネット上でその人の社会的評価を低下させるデマ情報を広げる行為は、名誉毀損罪に該当する可能性が高いです。

名誉毀損罪が成立しない例

プライベートな会話や個人的なメールでの誹謗中傷は、「公然」とはみなされないため、名誉毀損罪は成立しません。例えば、ある従業員が同僚に「上司が無能だ」という内容の個人的なメールを送った場合、このやり取りは不特定又は多数の人が知り得る状況ではないため、「公然」とはみなされません。

ただし、裁判例では、特定少数の人に対するメールや会話であっても、当該メールや会話が不特定又は多数の人に伝播する可能性がある場合には、公然性が認められている(これを「伝播性の理論」といいます。)ため、注意が必要です。
また、主観的な意見や評価をした場合、これが具体的な事実の公表とはみなされないときには、名誉毀損罪は成立しません。「彼の作品が好きではない」という意見は、具体的な事実の公表には当たらず、名誉毀損には該当しません。

さらに、公益性や正当な理由がある事実の公表も名誉毀損罪には該当しません。例えば、ある企業の製品が健康に害を及ぼす可能性があるという事実を科学的証拠に基づいて公表する行為は、消費者保護という公益性の観点から社会にとって重要かつ必要なため、このような情報の公表は名誉毀損罪に問われることはほとんどありません。

侮辱罪とは

侮辱罪とは

侮辱罪は、他人を侮辱することによってその人の名誉を傷つける犯罪です。日本の刑法第231条に定められており、公然と人を侮辱する行為を罰するものです。「公然」とは不特定または多数の人が認識可能な状態を指します。例えば、インターネット上の匿名掲示板やSNSで人を侮辱する行為があった場合、多くの人が閲覧できるため、これらは「公然」とみなされます。

侮辱罪の成立には、人の社会的評価を低下させるような言動が必要です。これには、名誉を傷つける意図的な言葉や行為が含まれます。

侮辱罪は、名誉毀損罪とは異なり、具体的な事実を摘示する必要はなく、侮辱的な言動そのものが罪となります。

インターネットの普及により、匿名での侮辱行為が増加している現代において、侮辱罪の適用事例は増えています。

侮辱罪が成立する場合、被害者は裁判所に対して刑罰の適用を求めるだけでなく、民事訴訟を通じて慰謝料を請求することもできます。

侮辱罪の刑罰

侮辱罪は元々比較的軽い刑罰とされていましたが、インターネット上での誹謗中傷などの問題を受け、刑罰が引き上げられました。侮辱罪により重い刑罰を設けることにより、悪質な侮辱行為に対して厳正に対処し、抑止効果を高めることを目指しています。

改正前の侮辱罪

  • 拘留:最長で30日未満の拘留
  • 科料:最高で10,000円未満の科料

改正後の侮辱罪

  • 1年以下の懲役または禁錮
  • 30万円以下の罰金、または拘留若しくは科料に処することが可能。

参考文献:法務省(侮辱罪の法定刑の引上げ)

侮辱罪の慰謝料相場は数万円程度ですが、名誉毀損の慰謝料相場は個人で10万円から50万円、法人であれば50万円から100万円となります。これらの事件を扱う際、被害者は弁護士に相談することが推奨されます。弁護士は慰謝料の請求だけでなく、必要に応じて刑事告訴をすべきかどうかも検討します。

権利侵害の程度によって慰謝料が増額されることはありますが、通常、侮辱罪は名誉毀損よりも慰謝料の請求額は低いです。

侮辱罪が成立するケース

侮辱罪が成立するケースは、他人を侮辱するような言動が公然と行われた場合です。以下は侮辱罪が成立する可能性が高い例をいくつか挙げてみました。

SNSで「〇〇は無能だ」と投稿される

SNSの投稿は不特定多数が見られるプラットフォームのため、「公然」と見なされます。「無能」という表現はその人の能力を侮蔑する意図があると解釈される可能性が高いため、侮辱罪として成立する可能性が高いです。

「〇〇は無能で過去に窃盗で逮捕された」など事実の摘示が伴う投稿には、侮辱罪ではなく名誉毀損罪に該当する可能性もあるでしょう。

ネットの掲示板で「〇〇はクズです」と個人を特定した投稿

不特定多数が閲覧可能な掲示板での投稿は「公然性」を満たしており、個人を特定して侮辱した投稿をしているので侮辱罪が成立する可能性が高いです。

「〇〇はクズで偽の経歴を使っています」など事実の摘示が伴う投稿は、侮辱罪ではなく名誉毀損罪に該当するでしょう。

侮辱罪や名誉毀損罪は加害者に刑罰が科されることがあります。また、被害者は民事訴訟を通じて慰謝料を請求することも可能です。

侮辱罪が成立しないケース

侮辱罪が成立するためには、公然性、故意、他人を侮辱する言動といった要件が満たされていることが必要です。これらの要件が欠けている場合、侮辱罪は成立しません。詳細な事例を見ていきます。

SNSのDMで「あほ」「クズ」と言われた

SNSのDMは個人間のやりとりのため一般的に公然とは見なされないため、侮辱罪の「公然性」の要件を満たさないと考えられます。

1対1の会話で「無能」と言われた

1対1の会話は一般的にプライベートなものと見なされるため、公然とは認められません。そのため、この状況では侮辱罪の成立要件である「公然性」が満たされていないため、侮辱罪として成立することはないでしょう。

しかしながら、もし公の場でこのような言動が行われ、その内容が他人の社会的な評価を低下させるものであれば、侮辱罪が成立することがあります。

Googleの口コミで料理がまずかったと投稿された

Googleの口コミは不特定多数の人が閲覧できるプラットフォームであるため、公然性の要件を満たします。しかし、「料理がまずかった」という投稿は、主観的な意見とみなされる場合があります。この場合、食の好みには個人差があるため、このような感想は個々の消費者の評価として扱われ、このような投稿を行った人物に、公然と人を侮辱する意図があるとは通常解釈されません。したがって、単に「料理がまずかった」と書かれた投稿は侮辱罪が成立することは難しいでしょう。

侮辱罪と関連した犯罪

侮辱罪と関連した犯罪

侮辱罪の成立が疑われる状況でも、内容に応じて他の犯罪が成立することがあります。侮辱罪と関連性のある犯罪について挙げていきます。

業務妨害罪

業務妨害罪(刑法第233条)は、他の人の業務を妨害することを目的とした行為を罰します。これには虚偽の事実を摘示する行為や、正当な理由なく権利を濫用して他の人の業務の運営を妨げる行為が含まれます。
例えば、ある飲食店で、競合店の店長が意図的にその店舗の評判を損なうために、「このお店の料理はまずい」と大声で主張します。何回もこの行動を繰り返し、特に忙しい時間帯に店の中で声を上げることで、他の顧客の不快感を引き起こし、店舗の売り上げ減少につながる場合、業務妨害罪の対象となり得ます。

さらに暴力的または脅迫的な要素を含む場合には、威力業務妨害罪が適用されることがあります。

脅迫罪

脅迫罪(刑法222条第1項)とは「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」場合に成立する犯罪です。例えば、「お前を殺す」「お前の息子を殺す」といった生命に関する害悪の告知が含まれます。さらに、「お金を払わないと家を燃やす」といった財産に対する害の告知を伴う場合も、同様に脅迫罪が成立するでしょう。

インターネット上で誹謗中傷された時の対策を解説

インターネット上で誹謗中傷された時の対策を解説

インターネットは日常生活に欠かせないツールですが、誹謗中傷も深刻な問題として存在しています。SNS、掲示板、口コミサイトなど、多様なプラットフォーム上で不適切なコメントや虚偽の情報が拡散され、個人や企業の評判に甚大な損害を与えることがあります。このような被害に遭遇した場合、適切な対処法を知っていることが重要です。

誹謗中傷の証拠を集める

誹謗中傷を受けた際には、証拠の収集が非常に重要です。名誉毀損罪や侮辱罪を成立させるためには、証拠をしっかりと集めることが、後の法的手続きで有利になることがあります。

誹謗中傷が行われたサイトやSNSの投稿のスクリーンショットを撮影しておくことで、もし投稿が後に削除された場合でも、その内容を証明することができます。

しかし、SNSなどの誹謗中傷コメントは削除が容易であり、特に問題がある内容は迅速にスクリーンショットを取っておきましょう。

弁護士に相談する

SNSなどの誹謗中傷は、放置しておくとすぐに拡散され、企業や個人の評判に深刻なダメージを与えることがあります。このような状況では、迅速な法的措置が必要です。インターネット上で誹謗中傷に直面した際、弁護士に相談することで適切な法的サポートを受けることができます。書き込みの削除請求、発信者情報の開示請求、損害賠償請求、刑事告訴など、さまざまな対応をしてくれます。これらの手続きを適切に行うことで、被害の拡大を防ぎ、迅速に問題を解決することが可能です。

また、弁護士は加害者の間で示談交渉を行い、裁判外での解決を試みることもできます。示談が成立すれば、時間とコストを節約しながら問題を解決できます。

弁護士選びのポイント

  • 専門性:インターネット法に特化した弁護士や法律事務所を選ぶこと。
  • 経験:類似のケースを多数扱った実績があるかどうかを確認すること。

インターネットトラブルに対処するためには、適切な専門知識を持つ弁護士に相談することが、問題を効果的に解決する鍵です。

警察に告訴する

誹謗中傷の書き込みが悪質であり、反省の様子も見られない場合、被害者は名誉毀損罪として警察に告訴することができます。名誉毀損は親告罪であるため、被害者が直接警察等の捜査機関に告訴しなければ原則として捜査が行われず、犯罪事件として立件されません。告訴とは、犯罪被害を受けた被害者が捜査機関に対して犯罪の事実と犯人の処罰を求める公式な手続きです。

誹謗中傷の内容を証明する証拠(スクリーンショット、目撃者の証言など)が必要です。また、告訴状を正確に準備し、事件性を明確に示すことも重要です。

告訴が受理されると、警察は証拠に基づいて捜査を開始し、事実関係を明らかにします。この段階で、加害者の取り調べや追加証拠の収集が行われることがあります。

捜査が終わると警察はその結果を検察官に送致します。検察官は提供された証拠を基にして、起訴するかどうかを決定します。起訴が決定されれば、加害者に対する刑事訴訟が開始され、裁判所が刑罰の適用の可否を決定します。

名誉毀損の告訴期限は、被害者が犯人を知ってから半年以内です。また、起訴の公訴時効は犯行が完了してから3年と定められています。これらの期限を過ぎると、法的な手段を取ることができなくなります。

複雑な手続きや法的な困難に直面することがあるため、適切な告訴状の作成や法律上のアドバイスを得るために弁護士の助けを求めることが推奨されます。

まとめ

名誉毀損罪と侮辱罪は、どちらも他者の名誉を害する行為に対して適用される犯罪ですが、その要件には違いがあります。

  • 名誉毀損罪:具体的な事実の摘示が必要であり、その事実が他者の社会的評価を低下させる場合に成立します。摘示された事実が真実であっても、公益性や正当な理由がなければ罪となることがあります。
  • 侮辱罪:事実の摘示は必要なく、人を侮辱するような言動が公然と行われた場合に成立します。侮辱に当たるかどうかは、当該言動が人の社会的評価を低下させるものであるか否かによって判断されます。

日常生活やインターネット上での発言が意図せずこれらの罪に該当するリスクがあるため、言動の慎重さが求められます。特にSNSやブログなどのプラットフォーム上での評価や投稿が、名誉毀損や侮辱の対象となることがあります。名誉毀損や侮辱の疑いがある場合は、速やかに弁護士に相談し、被害者の立場から適切な対応を取ることが重要です。

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